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前橋地方裁判所 昭和49年(ワ)153号 判決 1977年12月21日

原告

木島英行

被告

山金工業株式会社

ほか二名

主文

原告に対し被告らは各自金一、六七〇万三、九三九円および被告山金工業株式会社、被告小林新一郎はうち金一、五二〇万三、九三九円に対する昭和四九年九月一〇日以降、被告山内成一はうち金一、五二〇万三、九三九円に対する昭和四九年九月一一日以降右完済まで年五分の金員を支払え。

原告の被告らに対するその余の請求は棄却する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決一項はかりに執行することができる。

事実

一  求める判決

(一)  原告

原告に対し被告らは各自金一、八六五万六、八〇九円および被告山金工業株式会社、被告小林はうち金一、六九六万六、八〇九円に対する昭和四九年九月一〇日以降、被告山内はうち金一、六九六万六、八〇九円に対する同年同月一一日以降右完済まで年五分の金員を支払え。

仮執行宣言。

(二)  被告ら

原告の請求を棄却する。

二  主張

(一)  原告

「請求原因」

1  昭和四八年二月二六日午後零時八分頃、岡崎市舞木町地内東名高速道路下り線二八六・二〇キロポスト附近において被告山内運転の普通貨物自動車(本件自動車と略称)は停車中の普通貨物自動車(被害車と略称)に追突し、被害車を前方に押し出し、被害車の運転手で被害車から降りその前に立つていた原告に被害車を衝突させ、この事故で原告は負傷した。

2  この事故は被告山内の過失(前方不注視、ハンドル操作不十分)により発生した。

3  右事故当時、被告小林は本件自動車を自己のため運行の用に供しており、右事故はその運行により生じた。

4  右事故当時、被告山金工業株式会社(以下被告会社と略称)は被告山内の使用者であり、右事故はその職務の執行につき発生した。

5  損害

(1) 付添看護費 一二九万七、二〇〇円

原告は右事故で右大腿、右左下腿骨骨折の傷を負い、昭和四八年二月二六日から昭和五一年二月一一日までの一、〇八一日間、岡崎市立病院、前橋赤十字病院に入院治療を受けその間原告の妻が付添看護をなしたが、右は一日当り一、二〇〇円の付添看護費総額である。

(2) 入院雑費 三二万四、三〇〇円

右は入院期間中の一日当り三〇〇円の雑費総額である。

(3) 休業損害 四七一万七、九八九円

原告は受傷前、訴外千木良木工株式会社に自動車運転手として勤務し、一年間に一二〇万四、五九三円の収入をえていたが、前記負傷のため昭和五二年一月三一日の四七ケ月間全く就労できなかつた。

(4) 逸失利益 七六〇万一、二八九円

原告は治癒後も右脚短縮などの後遺障害により将来就労可能の三〇年間に就労能力の三五パーセントを失つた。

(5) 慰謝料 五五〇万円

(6) 弁護士費用 一六九万円

6  よつて右損害合計二、一一三万〇、七七八円から受領済の労災補償金五九万六、九六九円、被告山内からの弁償金五六万七、〇〇〇円、後遺障害自賠保険金一三一万円(以上合計二四七万三、九六九円)を控除した残額一、八六五万六、八〇九円およびこれから弁護士費用損害一六九万円を控除した残額一、六九六万六、八〇九円に対する、本件事故後である被告らに対する本訴状副本送達の翌日(被告会社、被告小林については昭和四九年九月一〇日、被告山内については同年同月一一日)以降の民法所定年五分の遅延損害金の連帯支払を求める。

(二)  被告ら

「請求原因に対する認否」

その1は不知(被告会社、同小林)。

その1は認める(被告山内)。

その2は認める(被告山内)。

その3は認める(被告小林)。

その4は否認する(被告会社)。

その5の(1)ないし(6)は否認する(被告ら)。

三  証拠〔略〕

理由

一  請求原因1は原告と被告山内間では争いなく、成立に争いない甲第一ないし五号証、甲第八号証によると請求原因1が認められ、右認定に反する証拠はない。

二  請求原因2は原告と被告山内間において争いなく、甲第一ないし五号証、甲第八号証によると、被告山内は本件自動車を運転して昭和四八年二月二六日午後零時頃、愛知県岡崎市舞木町地内東名高速道路下り線二八六キロポスト手前附近の走行車線を時速約八〇粁で東から西に向つて進行中、約一七五・五〇米左前方の路肩に非常電話をかけるため被害車が停車しているのを発見したが、折柄追越車線を走行してきた一台の普通乗用車が自車を追越そうとして接近中であることが右前のバツクミラーに見えたのでこれを注視することに気を取られ、ハンドルを正確に保持するのを怠り、かつ左前方への注視を怠つたため、本件自動車は僅かづつ左寄りに走行して遂には走行車線をはずれて車体半分位を路肩にはみ出して進行し、しかも前記路肩に停車中の被害車をその後方約一七・八〇米に接近するまで忘却していて気づかず、これに本件自動車を追突させ、被害車は前に押し出され、その前方に立つていた原告はこれにはねられ負傷したこと、が認められ、右認定に反する証拠はなく、右事実よりすれば右事故は被告山内の過失(ハンドルを正確に保持しなかつたこと、左前方不注視)により発生したといわざるをえない。

三  請求原因3は当事者間に争いない。

四  以下、請求原因4について検討する。

甲第八号証、被告本人小林新一郎、同山内成一の供述(但し次記認定に副う部分に限る)によると、

1  福井市に本店を置く被告会社はスチールロツカーなどを製造し、これを訴外伊藤商店などに販売していたが、被告小林は(貨物自動車二台を所有し)少くとも昭和四六年以前頃から被告会社の右スチールロツカーを全国各地にある訴外伊藤商店などの本支店などに運送する業務に従事していたこと、

2  右運送対価は運送したスチールロツカー一本につき何円という歩合的計算で一ケ月毎に一括支払われており、右運送の仕事がないときは他の依頼者の注文で貨物を運送することも許されていたが、被告会社の依頼による運送は一ケ月九回位あり、一回の運送従事日数は二ないし三日であるから他の依頼者の注文による運送は現実には極く僅少に止まつたこと、

3  被告小林は被告会社のスチールロツカーの運送を行うようになつてから同社の承認のもと、自己所有の貨物自動車二台に被告会社の名称を記載した標示板を設置し、右貨物自動車(後記新規購入の本件自動車を含む)は被告会社敷地内に保管していたこと、

4  被告山内は昭和四六年頃、被告小林に雇われ、被告小林所有の貨物自動車を運転して右スチールロツカーの運送に従事し、被告小林は前記歩合的計算で被告会社から受領した対価の一部を(被告山内の運送本数に応じた歩合的計算で)被告山内に支払つていたが、昭和四七年頃、被告小林は自己所有貨物自動車一台を下取りに出して貨物自動車一台(本件自動車)を新規購入しこれにも前同様被告会社の名称を記載して標示板を運転台上に設置し、その購入代金は自己振出の約束手形金の決済で分割支払つたこと、

5  被告山内は右スチールロツカー運送の仕事がないときは被告小林の指示で他の仕事にも従事していたが、被告小林についてと同様、現実にはそのような臨時の仕事は極く僅少であつたこと、

6  被告山内は勿論、被告小林も正規の貨物運送事業免許をえておらず、本件事故当時被告小林、同山内はそれぞれ各一台を運転しそれぞれ前記被告会社のスチールロツカーを運送していたが、事故前日の昭和四八年二月二五日、被告山内は被告会社の指示で福井市内の同社でスチールロツカー五〇本を本件自動車に積載し、沼津市、静岡市の訴外伊藤商事にこれらをおろし、岡崎方面に向つて東名高速道路を進行中本件事故を起したことが認められ、右認定に反しこれを覆すに足りる証拠はなく、このような免許をえず、一応は独立して運送業を営んでいるが、その業務内容は被告会社の依頼によるスチールロツカー運送にほぼ限定されており、そのためその所有の貨物自動車(本件自動車を含む)には被告会社の名称が表示されており、その保管場所も被告会社敷地内とされていたことからすれば、被告小林は被告会社の製造物品の運送部門的立場にあつたということができ、そうすると被告小林の指示に従い前記のように被告会社のスチールロツカーの運送のための自動車運転に従事していた被告山内も被告小林を通じて間接的にではあるが被告会社の指揮監督を受けるべき立場にあつたとみることができ、そうすれば前記のように被告会社のスチールロツカー運送の帰路発生した本件事故はその職務執行につき発生したもの、従つて本件事故につき被告会社は使用者としての賠償責任を負うといわざるをえない。

五  以下、請求原因5について検討する。

(一)  付添看護費(是認額一二九万七、二〇〇円)

成立に争いない甲第一七号証、弁論の全趣旨に照らし真正なものと推認できる甲第一八ないし二一号証、原告本人の供述により真正なものと認められる甲第二二号証、証人清水澄雄、原告本人の供述によると、

1  原告は本件事故で右大腿骨骨折、左右下腿骨骨折の傷を負い、昭和四八年二月二六日、岡崎市民病院に入院し、同年二月二八日、左下腿、右大腿髄内固定手術、同年三月二七日、右下腿右同手術、同年四月二八日、観血手術、同年五月一六日、観血手術を受けた後、同年六月五日、前橋赤十字病院に転入院し、同年六月二九日、右下腿キユンチヤー抜去骨移植手術、同年九月一〇日、左下腿キユンチヤー抜去、骨移植手術、昭和四九年一月二一日、右大腿キユンチヤー抜去(抜去後再骨折したので)再固定手術、同年一二月九日、右大腿キユンチヤー抜去、骨移植各手術を受け、昭和五一年二月一一日、右病院を退院し爾後同年一二月二四日まで同病院に通院(実日数二四日)治療を受け、昭和五一年一二月二四日治癒と認定を受けたこと、

2  岡崎市民病院入院中、右下腿に骨髄炎の疑いがあり、その検査を受けたりしたが、前記固定手術による骨折部位の接着は悪く、特に右大腿骨骨折部位についてはそれが顕著であり、骨髄炎との間の因果関係に疑いがもたれたりしたものの、(医療過誤、特異体質を含めて)その原因は不明のまま現在に至つていること、

3  右合計一、〇八一日間に及ぶ入院期間中、そのうちの一〇日間を除き、症状に照らし付添看護が必要とされ、原告の妻訴外木島すみ子が終始、その付添看護に当つたこと、

が認められ、右認定に反しこれを覆すに足りる証拠はなく、付添費は一日当り一、五〇〇円とみるべきであるから、付添看護費合計額は一、五〇〇円に一、〇七一(全入院日数から右付添不要の一〇日を控除したもの)を乗じた一六〇万六、五〇〇円となり、右額の範囲内である原告の主張額は全額是認できる。

(二)  入院雑費(是認額三二万四、三〇〇円)

右入院期間中の一日当りの雑費額は三〇〇円とみるべきであるから、三〇〇円に全入院日数一、〇八一を乗じた三二万四、三〇〇円は全額是認できる。

(三)  休業損害(是認額四六〇万円)

原告が右負傷で昭和四八年二月二六日以降昭和五一年一二月二四日まで入通院治療を受け、昭和五一年一二月二四日治癒と認定されたこと前記のとおりであり、原告本人の供述により真正なものと認められる甲第一六、二四号証、原告本人の供述によると、原告は本件事故前、訴外千木良木工株式会社に自動車運転手として勤務と、一ケ月平均一〇万円の給与収入をえていたこと、負傷の昭和四八年二月二六日以降少くとも前記治癒の頃までの四六ケ月間は全く就労できず、現に就労しなかつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。そうすると右休業期間に右記一〇万円に休業月数四六を乗じた四六〇万円のうべかりし収入利益を失い、同額の損害を蒙つたことになるから、右額の範囲内で原告主張の休業損害を是認する。

(四)  逸失利益(是認額六四五万六、四〇八円)

甲第一九号証、原告本人の供述により真正なものと認められる甲第二三号証の一ないし四、原告本人の供述によると、原告(昭和一四年六月生)の傷は前記のように昭和五一年一二月二四日、治癒と認定されたが、その後も前記傷の後遺症として右脚は左脚に比し約一・五糎短く、左下腿外側に知覚鈍麻があり、右障害は自賠法施行令第九級と認定されたことが認められ、右認定に反し、これを覆すに足りる証拠はなく、これによれば治癒認定時三七歳の原告は右後遺障害により終世、その労働能力の三五パーセントを失つたものとみることができ、原告の一ケ月の平均収入は一〇万円(一年間一二〇万)であること前記認定のとおりであり、原告の年齢からすると右治癒時において原告はなお将来三〇年間就労可能とみるべきであるから、ライプニツツ式計算方法で年五分の中間利息を控除しても、原告は右三〇年間に一二〇万円の三五パーセントに当る四二万円に一五・三七二四(三〇年についてのライプニツツ式係数)を乗じた六四五万六、四〇八円のうべかりし収入利益を失い同額の損害を受けたことになる。

(五)  慰謝料(是認額五〇〇万円)

原告の前記負傷の部位、治療期間、後遺障害の程度などを総合考慮すると慰謝料の額は五〇〇万円とみるのが相当である。

(六)  弁護士費用(是認額一五〇万円)

後記請求認容額よりすれば弁護士費用としては一五〇万円を相当額として是認する。

六  そうすると被告らに対する本訴請求は前記是認すべき損害合計一、九一七万七、九〇八円から受領金合計二四七万三、九六九円を控除した残額一、六七〇万三、九三九円およびこれから弁護士費用損害一五〇万円を控除した残額一、五二〇万三、九三九円に対する本件事故後である被告らに対する本訴状副本送達の翌日(被告会社、被告小林については昭和四八年九月一〇日、被告山内については同年同月一一日)以降の民法所定年五分の遅延損害金の連帯支払を求める範囲において理由があることになるからこれを認容し、その余は失当として棄却する。

七  訴訟費用は大部分敗訴の被告らの平等負担とし、申立により主文一項に限り仮執行宣言を付す。

(裁判官 上杉晴一郎)

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